SHERLOCK/シャーロック 4 強調したいときのa、theの発音

ドラマで学ぼう

SHERLOCK/シャーロックには、

同じ冠詞が同じ子音の名詞についているのに、

冠詞の発音がちがうところがあるのです!

それも少なくとも二箇所。どこで?そうなるのはなぜかをみていきましょう。

不定冠詞のa

SIR JEFFREY: What d’you mean, there’s no ruddy car? 車が回せない?

(ジェフリー卿の秘書が電話を手にオフィス内を歩いている)

HELEN: He went to Waterloo. I’m sorry. Get a cab. 出払っているの タクシーを

SIR JEFFREY: I never get cabs. 乗り慣れない

(Helen looks around furtively to make sure that nobody is within earshot, then speaks quietly into the phone.)HELEN: I love you. 愛してるわ

SIR JEFFREY (suggestively): When? (思わせぶりに)いつ?

HELEN (giggling): Get a cab!(笑って)タクシーに乗って!

(「ピンク色の研究」02:38~02:56)

日本語訳は字幕のものです。オープニングの直後に来る部分です。

ここで注目したいのはなんといってもGet a cab の一回目と二回目でaの音がちがうこと。

一回目の発音では、

子音字の名詞/形容詞の前の不定冠詞aは

発音記号で/ə。 シュワ(Schwa)といわれるあいまい母音

という基本通りの発音をしています。前のgetのtの影響を受けた音になってますが、強いてカタカナでかくなら、「ア」でしょうか。

ところが、二回目でのaは[ei]と発音しています。「タクシーになんか乗らないのに」というジェフリー卿に対して、秘書のヘレンが「(いいから)タクシーに乗って!」とゆっくりと言っているわけです。

定冠詞のaを[ei]と発音するときは、次のような場合です。

1.母音の前

2.その後の言葉を強調したいとき

3.相手が複数名詞を述べたときに、複数でなくて「一つ」といいたいとき

ここでは2でしょう。”cab(タクシー)”を強調したいから、です。

ruddy car(赤い車(ruddyは「赤」の意味)、あるいは迎えにくるはずだったのになぜか来ておらず、ウォータールー駅に行ってしまった忌々しい車(この場合のruddyはdumned)の意味)を待つのはやめて、cabにのってください、ぐらいのつもりでいったのでしょうか。

ruddy 参照

定冠詞のthe

定冠詞で違う発音が登場するのは、『ベルグレービアの醜聞』の最後の部分

YouTubeで動画があがっています。この中でも1:13ぐらいからが問題の部分です。

 

動画部分のセリフと状況をのせてみます。

携帯電話にのこるアイリーンのメッセージのうち、最後に「さよなら ホームズさん」というメッセージが映し出された後、二ヶ月前に(アイリーンが処刑された)カラチと思われる回想シーンが登場する
夜、外国語でわめく男性の声の中、アイリーン・アドラーが登場し、軍用車を前にして地面にひざまづく。黒い服を着ており、髪は黒いスカーフで覆われている。片手でメッセージをうつ「さようなら、ホームズさん」送信後、携帯を男性に渡す。2人目の男性が剣を手にアイリーンに近寄り、刀を首の後ろに置く。目をつむるアイリーン。突然、ホームズの携帯に設定したアイリーンの声が響く。目を見開いて処刑人と考えていた男性の目を見ると、ブルーグレイの瞳が見える

SHERLOCK (quietly): When I say run, run!合図したら走れ!
(アイリーンはまた顔をあげる。処刑人が刀を振りあげ、処刑を執行しようとしたようにみえたが、処刑人(実はシャーロック)は振り返って、近くの人間に斬りかかっていく。アイリーンは生きているのが信じられないといったふうに目を見開き、少しずつ笑顔を浮かべる)

現在のロンドンにもドル。シャーロックが思い出に浸り、アイリーンの携帯をポケットから取り出して眺める

SHERLOCK: The Woman. あの女
(引出をあけて、携帯をいれ、マドに手をやり、また携帯をとりあげて言う)
SHERLOCK: The Woman.
吹き替えでは 「あの女 (2回目はゆっくりいわせている)」
字幕では「比類なき女」

冠詞のこういう使い方ってあるんだ!とうなってしまったところです。こんなちょっとした変化でここまでニュアンスがちがってくるんですか。
womanは [wúmən]でして、wの音がはいります。母音ではじまる言葉ではありませんから、通常は【ðə】 (強いてカタカナで書くなら「ザ」ですが、舌先を軽く歯で挟む有声音のthで日本語にない音です)であり、【ði】(やはり有声音のthにiがついたもの。強いてカタカナで書くなら「ズィ」)ではありません。1度目は通常の通り【ðə】、そして2度目はあえて、【ði】で発音しています。
定冠詞の発音のこの変化も、基本的には、後ろに子音がくるのに不定冠詞のaが[ei]となると次の言葉が強調されるのと同じです。
とはいえこの場合は強調というより、なんともいえない思いが一語の発音にこめられているのじゃないでしょうか。
はじめてこのドラマをみたのがNHKの吹き替え版でした。吹き替えの日本語は、二回とも同じ「あの女」でした。だけど言い方を変えていたのです。最初はさりげに、そして二回目はゆっくりと、かみしめるように。日本語版は速度を変えることで、変化をもたせたのですね。
が、字幕では、この速度を変えるという芸当ができないので「あの女。比類なき女」と二度目を意訳にしたのでしょう。シャーロックが「比類なき」なんて言い方をするの!?という疑問は感じないでもないですが、英語の声がこれにかさなるともうなんともいえず、いい訳だと思ってしまっている自分がいて、このシーン、何度もリピートしてしまっています(笑)
日本語のようにはっきりと速度がかわることもないし、特に思い入れを込めて言っているようでもありません。すぐに顔をあげて立ち去っていきますし。だけど、さきほどまで宙にほうりなげた後、しまい込もうとしていた携帯から手を離さず、一瞬、みせる表情と【ði】の発音がねえ…

 

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